Vol.20 職人技術を遺さなければならない理由
Q.壊して新しく建て直す方が早いと思うのですが、なぜ壊すのはもったいないのですか?
僕のいうもったいないとは、材木ももったいないんですけども、当時の職人さんが、当時は材木はものすごく高くて日当は安かったんですよ、でも安いからこそ、職人さんは一生懸命きちっと仕事をしとるんですね。木組みで丸太だいうてばかにしとったらいかんですよ。ものすごい仕事しとるんですよ。それをのうなすのがもったいない。職人の技術が消えていくという。そういう意味でもったいない。僕は職人が好きなんです。
Q.職人の技術が継承されなくなるからですか?
そうですね。50年なり100年なり経って誰かその家に入ってきたと。直そうかどうしょうか思よんです、同じパターンですよね。そのときにその仕事のあとが残っとるというのは、無言で教えてくれるんですよね。
私も、小学校2年の時、親父に死んだ爺さんの道具をもらって、5年6年でもう大工してましたから、親父と一緒に近所の古い家へ入る。小屋裏に入ると、自然と木組みは覚えてこれる。木というのはこうやって組んどんかと。それで今がある。だからそういう家がなくなったら、職人は育ってこんのじゃなかろうか。だから今のうちに今の若い職人にそういうものを教え込む、いう意味でね。壊すんであれば大工の手で壊してやる。外して部材を使ういうことがあるじゃないですか。それはまたいいんですよ。
ふつう、古い家を解体するいうたら、機械がきてぐちゅっとつぶしてしまう。材木を再利用するいうのは、職人が行ってきれいに傷つけないように木をあてて、かけやでくらわしたり、栓があるやつを栓を抜いて上手に外すわけですね。その外すいう作業、仕事がざっと見えるわけですね、100年前にしとった仕事を外すことによって100年ぶりに今まで見えなんだものが見えるわけですから、そこに職人の仕事の技が。木と木がおおとる面が本当にかんなをぴしっとかけとるくらい仕事してます。
今はのみでコンコン、見えん所じゃからというような発想ですよね。だから、そういう意味で無言で教えてくれるわけです。それがなくなるいうのはもったいない。
Q.技術が分かる人がいなくなったらどうしますか?
必ずそれは育ってくると思うんですけどね、そういうことがわかってくれる世の中、それが大事なんですよ、とそれが気持ちがこもるいうことなんですよね。本当の意味での気持ちが。隠れたところまできちっとしていく。見えるところだけきちんとしていく、それは職人としてはやっちゃあいけないこと。僕にいわしたら、それはだましたいうこと。表面だけきれいなのはだましたこと。中まできちっといっとるということが真心がこもるいうこと。表面がきれいなのは当たりまえじゃないですか。